Story X.1 (自分でもどれがどれだか忘れている辺りがなんとも…)
聖騎士ネスカ、変心する。 (著者:Keen the Librarian)
「おーいビュエリー! 師匠がお呼びだ!」
砂漠でぴすぴすと弓を撃っていたビュエリーが犬に変身して駆け寄ってくる。とりあえず変化の術はマスターしたらしいがその他の術の習熟度はどの程度なのか、ネスカは知らない。最も知っていてもそれどころではないのだが。
徳之島がブリタニアの民に解放されて4ヶ月の月日が流れようとしている。
物見遊山の気持ちで訪れたトクノの島で、彼はサムラーイと呼ばれる戦士の姿を見た。恐るべき速度で繰り出される二連撃。瞑目すれば傷がふさがり、ライトニングにも等しい速度で繰り出される一撃は狙いを違えず、防御のカタから繰り出される防御陣は何物にも崩されず…彼は一目見てその技術に惚れ込んだ。
同道したビュエリーの制止も聞かずにその場でサムラーイの道場の門を叩き、すでに3ヶ月が経過しようとしている。最初は基本的な「カイシャク」から始まり、次第に精妙なる技に習熟していく。
一昨日からはライトニング・ストライクの練習に移ることが出来た。ようやくサムライらしき戦闘にも馴れて来たころ、突然に師匠からの呼び出しである。
こりゃぁ、またぞろ「コーアン」でもやらされるのか…と思えば足取りも重くなる。
そもそも聖騎士だった彼は比較的単純な理の中で生きており、ボーズがもごもごやっているようなソモサンセッパの世界の話は苦手なのだ。
しかし師の話は意外な展開を見せた。今後の修行の方針、心構え(ネスカが最も苦手とする分野である)…それらの伝達の後に渡されたのは真新しい武士道の教書。表には難解な文字でモク…クと記載がある。
「なんですかこれは?」
「なんですって…目録と言う物だよ」
「一人前と言う事ですか?」
「うちの流派の一員と正式に認められた程度のものだ。たゆまず励めよ」
そんな事を言われてもピンと来ないネスカなのであるが、このまま話を続けると夜が明けてしまう可能性が高かったので恭しく目録を頂戴し、退去した。別室ではニンジャの頭目からビュエリーが同じく目録を頂戴したようだが、彼女は家に戻るなり本を書写屋に土産として渡してしまった。そもそもブリタニア人にいいものを与えても、その価値判らないと思うのだがと首をかしげるネスカであった。大体においてブリタニア人は与えられた物の性能ばかり気にするし。
久々に社に戻ると書写屋がウンウンと頷いている。どうも彼は独自のルートでブシドーの研究をしてきたらしい。目録の話をすると彼は眼を輝かせて徳之島の武術がどの様に発展したか、ネスカの知らないネスカの習得した技術の流派伝承等を事細かに話始める。
正直な話、開祖の法眼なんて師匠の話でもほとんど出てきていなかったのだが。(聞いた事があるような、無いような…)
もともとの剣術の心得が合った為か、ネスカの武士道訓練は恐るべき速度で進んでいった。師に言われた「毎日千回は迅雷撃を練習せよ」をクソ真面目に行った結果、いつしか彼はタツジンと呼ばれるレベルまで武士道をマスターしてしまった。そしていつしか元々覚えていた筈の騎士道を忘れ去り、書写屋曰く「インチキタツジン」として怪しげな存在に成り果てる。そもそも初心修行の頃から砂漠に出て実践訓練を積んでいるのだ。道場に戻るのは飯と寝る時のみ。ごく稀に朝夕に師匠に呼び止められて箸の使い方を注意されたり、寿司の食い方の手ほどきを受ける程度。
仕方無しにサムラーイらしくあろうと独自に調べ物をするとどこからともなく書写屋が現れ、これまた怪しい知識を植えつける!
「サムラーイはチャーを飲まねばならん」
「ベントーの箱は後に捨てねばならないが、チャーの器は食うのが礼儀」
「剣はスピリットなので大切にする事」
正直途中からネスカですら「あやしい」と思う事を吹聴し始める。ネスカの変な武士観はパイレミンによってもたらされた部分が大きい。このオッサンたまに変な知識吹き込むからなぁ。
彼の名はネスカ。意外と惚れっぽい男。聖騎士を目指すもいつの間にか変節し、武士道マスターを夢見るお年頃。その彼が再び聖騎士の道を行く事になるのだが…それはまた別のお話と言う事で。
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